2009年07月01日
クマという名の犬

老婆が物の怪に襲われている図ではありません。
よくある話なのですが、
我が実家は没落の憂き目にあっているそうです。
なんでも出は浅野の家老職で、
大政奉還のおりに領地を頂き、大地主として君臨していたとか。
(ホンマかいな)
ところがひいおじいさんという人が、
頭は良かったが人も好く、
だまされて、ほとんどの財産を失ったあげくに、
頓死してしまったのです。(おばあちゃん談)
ひいばあちゃんは、まだ子供だった一男四女を連れて、
隠居所に引きこもりを余儀なくされ、
今の私の実家へと移り住んだのでした。
そのときに、困ったのが、犬や猫。
ずいぶん動物好きな家族だったらしく、
何匹いるのかわからんくらい養っていたとか。
(おばあちゃん談)
それぞれご近所に引き取り手を見つけて、
(小作人達が同情して引き取ってくれたと、おばあちゃん談)
自分達だけで川向こうの隣町へ越してきたのです。
距離にすれば、イオンからデパート前くらいかな。
昔は橋もほとんどかかってなかったので、
追ってくるものもないであろうと。
動物達の中で、ひいおばあちゃんが一番かわいがっていたのが、
「クマ」という名の真っ黒くて大きな犬でした。
後足で立ち上がると、
ひいばあちゃんより頭一つ大きかったといいます。
引っ越して、しばらくたった頃、
玄関で、戸を叩く音がするんだそうです。
「ごめんください」の声もないので、
おかしいなあと思いながらも
ひいばあちゃんがガラッと戸を開けると、
そこにはクマが、後足で立ち上がり、
ひいばあちゃんに抱きついて来たんだそうです。
息が止まるほどびっくりしたけど、
息が止まるほど嬉しくて、
ひいばあちゃんはクマと抱き合ったまま、
声をあげて泣いてしまったとか。
あとで、クマを引き取った家に聞いたところ、
一家が引っ越した翌日に
クマはつないである綱を噛み切って、いなくなってたそうです。
クマは、こっちの家には一度も来たことがないので、
ご主人達のニオイを頼りに追ってきたのでしょう。
いじらしい話です。
その後、クマは死ぬまでひいばあちゃんが手放さなかったそうです。
私が産まれた時には、もうクマはいませんでした。
エスという中型犬がいて、
それはそれで悲しい別れがあるのですが、
それはまた、別の機会に。
余談ですが、
この話をしてくれたばあちゃんは
「うちのタマは来てくれんかった。」
と悲しそうでした。
猫屋敷といわれるほど猫を飼っていたのは、
その反動なのかも。