2017年06月30日
今日の日はさようなら

業界の、ごくごく内輪の小さな通信を毎月書き始めて、
10年近くになります。
知る人ぞ知る、と言っても本当に少人数ですが。
ファンレターが来るわけでもなく、
たいした反響もないけれど続けている私はえらい、
そう自分に言い聞かせながら。
話は変わりますが、
去年、沖縄の女友達が亡くなりました。
少し年上の、美しく聡明で前向きな人でした。
なにしろ距離がありますからやりとりは専ら電話。
彼女はもうちょっと前にご主人を亡くしていました。
「ショックだったし、よっぽどお店も閉めようかと思ったけど、
お客さんの顔を見ると、頑張ろうと思っちゃうんだよね~。」
てなわけで、それからは薬局を姪ごさんに手伝ってもらいながら、
頑張って経営していたのです。
彼女とと姪ごさんは声がそっくりで、
間違えることもしばしば。
いきなり話し始めると、
「ちょ、ちょっとお待ちください!叔母とかわります!」
と言われることもしょっちゅうでした。
電話をかわるといたずらっぽい声で、
「も~、何回目?確かめようよ。」
とたしなめられるのだけど、性懲りもなくまた繰り返していました。
だけどいつからか、
「叔母はちょっと体調を壊してて・・・。」
と、電話をかわってもらえることも、なくなってきたのです。
手紙を出しても返事もなく、
ああ、よほど悪いのだなあと思っていたところへの訃報でした。
それから沖縄へ行くこともなく、
彼女の薬局も終わっちゃったのかなあと思っていたのですが、
きのう共通の友人と話していたとき、
「姪ごさんが継いで頑張ってるよ。」
と聞いたのです。
嬉しくて、すぐ電話しました。
「もしもし。」
叔母さんと同じ声。
懐かしい話をしばらくした後で、こう言われました。
「通信、書いておられますよね?」
いきなりで理解できず、
「えっ?」と言うと、あわてたように、
「あれ?違ってましたか?
つかさちゃんが書いてるんだよ、って、叔母がいつも言ってたんですけど。」
その「つかさちゃんが書いてるんだよ」という声と同時に、
彼女の嬉しそうな笑顔と仕草がぱっと浮かんできました。
「あっ。いや、書いてます。書いてますよ。」
「ですよね!叔母が最初からずっと綴ってたんですよ。
私も続けて綴ってるんです。」
こんな嬉しいと思ったこと、
ここんとこありませんでした。
もう会えない、そう思っていた人と、
思いもかけず再会できたような、そんな嬉しさ。
いつも電話の始まりは、
「頑張ってる?」
そして終わりは
「頑張ろうね。」
もうこの世にはいないけど、
これからも何度もこんなふうに出会えるといいな。
さよならだけど、さよならじゃない。そんなこと考えながら、
温かい涙を流したキリンさんなのでした。
Posted by キリンさん at 13:41│Comments(0)
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