2013年04月08日

花の下にて春死なむ

花の下にて春死なむ


無事に実家での法事を終えて
宮崎に帰って来たキリンさんです。

むこうは桜が満開で、
ちょっと散り始めた頃。
花びらが風に舞っている光景を
あちこちで目にすることが出来ました。

さて、父の一周忌は本当に身内だけの簡素なもので、
自宅にご住職をお招きして行われたのです。

と聞くと、とても、ええもんのように聞こえますね。

総勢が15人、血縁者だけの式というのは、
なんと申しますか、ざっくばらんです。

昔の家ですから、
床の間のある客間と、
その隣りの仏間をつなげると、
まあまあ広くはあるのですが、

ご住職と、その真後ろの母、弟、私は密接した距離にあり、
そのまた後の弟の嫁、母のイトコ達、伯母、私のイトコも
くっつき合って座ってるわけです。

事件の発端は、
まだお経の最中のこと。

嫁が後から私のお尻をつつくのです。
声を潜めて、

「おねえさん、おねえさん。」

「なに?」

「御布施はいつ渡すんですかね?」

御布施は弟が用意してくれて、嫁が持ってくれていたのです。

「いつ・・・?????」

知らんがなーーーー。
そうだ、イトコのところは去年が一周忌だったから、
イトコに聞いてもらえばいい。
私も声を殺して、

「ミチコちゃん(イトコ)に聞いて。」

「えっ、だ、誰???」

そうだった。嫁とミチコちゃんはあまり交流がないのでした。
体をねじって後を向いた私は一段と声を殺して

「ミチコちゃん、御布施はいつ渡すんかね?」

「えっ??それはお母さんよね。(私の母のこと)」

どうやら「いつ」を「誰が」と聞き間違えてるらしい。

その時、お経が終わって、
ご住職がこちらに向き直られたのですが、

嫁は何か勘違いしたらしく、
後から

「これ!!」
とナナメ前の母に御布施を渡そうとしました。
ところが母は今までのやりとりなんて
まるで耳に入ってなかったみたいに
知らん顔をしているのです。

またまた身をよじったわたしが
それを手に取り、

伯母、母のイトコ達に小さな声で、

「今渡すん?」
と聞くと、

全員が目をむいて

「まだ!まだ!まだっ!!」
と、声を殺してるつもりだけど鋭い口調で私を制したのでした。

その気合いにひるんだ私の手元はゆるみ、
つい落としたフクサから
ノシブクロがはらりと、ご住職の目の前に。

「あっ、も、申し訳ありません!!不手際で・・!!」
と、ささっと回収しお尻の裏に隠す私。

「いえ・・。」
と、きっと今までのやりとりが全部聞こえていたであろうご住職は、
困ったような顏をして眼鏡を直されたのですが、
実は、彼は、現役の大学生なのでありました。

うちが檀家であるそのお寺は、
おなじみだったご住職が高齢になられたあとは、
娘さんがあとを継ぎ、
その息子さん二人が後継者となるべく修行中で、
今回は二男さんが来て下さったのでした。

その二男さんが話されたのは、

「実は半年前に祖父が亡くなりまして・・・」

ああ、そうか。あのお坊様は亡くなったのね。
と、子供の頃に知っていた、優しそうな顏が脳裏に浮かびます。

「私は、祖父の背中を追っているようなものです。
 もっとも、その前には母の背中も兄の背中もあり、
 追い越すのは無理なのでしょうが、
 ずっと追い続けていこうと決心しているのです。」

と、所信表明みたいな話でしたが、
初々しさと誠実な話しぶりは、
みんなの心にしみわたり、しみじみした心持ちになったのでした。

お話が終り、深々と頭を下げられたとき、
私の後から

「今よっ!!」
「今!今!」
「今ッ!!!!」

と、鋭い声がかかり、
急いで御布施を母に渡し、
母は何事もなかったかのようにご住職に御布施を渡したのでした。

学生さんでも住職なのかな。
よくわからんけど、
お経もお話も良かったので、いいか。

というわけで、無事に一周忌は終了したのですが、
伯母たちが父の写真をみながら、

「桜が散る頃に逝っちゃったんじゃね。」
「ほうじゃね、桜の散る頃に。」

と静かにつぶやき合っていたのが
私の心に残ったのでした。

今回の帰省は、
他にも色んなことをして、とても楽しい時間を過ごし、
今はちょっと幸せな気分です。

指に血豆作ったりもしたけど、
その話はまた別の機会に。

では、今週も元気だしていきましょうね。


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Posted by キリンさん at 12:36│Comments(4)王様の耳はロバの耳
この記事へのコメント
また目頭がじんわりしてしまった。
rueも春に逝きたい。
尊敬する小林秀雄さんは3/1でしたか。
血豆がきになるところです。えへへ。
Posted by ruerue at 2013年04月08日 14:50
rueさん

ありがとね。
笑いと涙の一周忌でした。

春に眠りにつくのは
いいかもしれませんね。
安らかな気分で。

血豆は、期待するほどの話ではござらんよ。
またネタ切れしたら書きます。
Posted by キリンさん at 2013年04月08日 23:02
祖母も、桜散る中に逝きました。
晩年は、今で言う認知症がすすんでいた祖母でしたし、家での介護でしたが寡黙な関係(!?)だったので話をする事もなかったし、祖母が何を考えていたのかはわからず仕舞い。
なくなって十数年経った今頃、泣けてきます。私の卒業と就職を見届けたかのようなタイミングでしたから。
子供の頃は、ちっともわからなかったけど、もしかしたら私を可愛がってくれてたのか と。
ばあちゃん、ありがとうねぇ。

キリンさんに言ってもしゃあないか(^^;)
Posted by いち at 2013年04月09日 05:39
いちさん

いえいえ、
どこで言っても聞こえてると思います。
私はそう信じています。

家で介護は、
言葉で言えば一言だけど、
実際にするのは大変だったでしょう。

人間って話さなくてもわかることは多いのでは。
私も父とは話さなかったけど、
お互いわかりあえてたと、
それも信じているのですよ。
Posted by キリンさん at 2013年04月09日 14:18
 
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