2010年05月17日

口蹄疫 なぜ殺さなければならないのか

口蹄疫 なぜ殺さなければならないのか



今日は、ちょっと長いです。

いろんな人に口蹄疫の話をして、
一番聞かれる素朴な疑問がこれです。

「どうして、全部殺さなくちゃいけないの?」

私なりに調べた答を書いてみるので、
もし間違いがあったら指摘してください。

口蹄疫に感染した牛は、成牛の死亡率は低いのですが、
著しく肉質が低下し、乳牛は乳が出なくなります。

それが一頭や二頭なら話も違うかもしれませんが、
感染力が非常に強いので、
あっと言う間に農場全体に広がってしまい、
全頭が、かかってしまいます。

自分の処だけで済めばまだいいのですが、
あっという間に、よそにも広がってしまい、
地域全体の牛、豚が犠牲になります。

宮崎では、
初発から現在に至るまで、
必死で食い止めようとしているにも関わらず、
これだけ広がっているのですから、
何もせずに放っておいたらどんなことになるでしょう。

宮崎のみならず、九州全域はおろか、
日本全国にとどまらず、世界中に広まるまで、
それほど時間はかからないでしょう。

成牛の死亡率は低いけど、
子牛はとても高いのです。
子供が育たなければ、その種は途絶えてしまいます。

近い未来に
「昔は、ウシやブタという動物がいて、
 ずいぶん栄養豊富で美味しかったらしいよ。」
という絶滅動物になってしまうかもしれません。

写真の本は、
第二次世界大戦前後に活躍した、
イギリスの獣医さんが1972年に出版した回顧録です。

実はここに口蹄疫のブタのエピソードが書かれています。
先日りあんさんと電話で話したとき、
「キリンさん、あの本にも出てましたよね。」
と言ってました。

著者が、ある農家に往診に行って、
口蹄疫のブタに気付くくだりでは、
「蹄を調べながら、僕の腕は震えていた。」
「口の中がすっかりからからになるのを感じながら」
と、衝撃の大きさを表しています。

そして、役所に連絡して農夫に、
「ここの豚は全部屠殺します。」
と宣告すると、農夫はやはり問います。

「一頭残らずか?」

それにこたえて
「口蹄疫というのは、おそろしく伝染力が強いんです。
 この豚を治療してる間にこのあたり一帯の家畜がみんなやられるし、
 たちまちのうちに国中に広がりますよ。」

また、発生の確認直後から、不安な待機の時期が始まると書かれています。

「関係者全員が、拷問台の上で待たされているような気持ち」と。

「町に住む人々にとって、口蹄疫はいつもどこか遠方の話であり、
 新聞で読むことでしかない。
 田舎に住む人々にはそれは静かな農場が戦場と化し、
 毎日が葬式の連続のような大騒ぎになることと、限りない不幸を意味した。
 悲嘆であり、破滅なのだ。」

イギリスでの酪農の歴史は、
日本と比べるべくもありません。
悲嘆の過去もたくさんあるのでしょう。

それにしても、
第二次世界大戦の頃と同じ対処法しか今もないとは。
人間って非力なもんですね。

私が今日のこの記事をアップしたからといって、
何が変わるわけでもないのですが、

「どうして全部殺さなければならないのか」
という基本を納得してもらわないことには、
先に進まないような気がしたので書いてみました。

なお、ご紹介した本ですが、
これはユーモアあふれる素敵なお話がいっぱいです。
是非、ご一読を勧めます。


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Posted by キリンさん at 11:46│Comments(12)王様の耳はロバの耳
この記事へのコメント
先日同僚が知り合いの獣医さんから聞いたというはなしで
殺さなくても良い薬もあると言ってたんですよ。
ただ確認する間に全て殺処分されるので、
効果が確認出来ないと言ってました。
悲しい話しですけど、全頭処分が一番なんでしょうかね。
Posted by pia masapia masa at 2010年05月17日 12:31
pia masaさん

悲しいけれど、
現在はそれしかないと考えています。
嵐の中にいるわけなんで。

薬の効果や予防ワクチンについても、
早急に実用できるよう研究を急いでほしいとも、
切に願います。
Posted by キリンさんキリンさん at 2010年05月17日 12:44
<殺さなくても良い薬もある
これって、現時点では100%の効果があるわけではなく効果が無いこともあるらしいと聞いたことがあります。
そうすると、感染中か完治したか判らないので安心して過ごしていたら更に被害が増えた。という状況が発生する可能性があります。
もっと研究が進んで100%完治するワクチンが出てくれることを祈るばかりです。
Posted by   at 2010年05月17日 13:35
?さん

コメント有り難うございます。

本当に、研究が早く進んでほしいです。
口蹄疫が、過去の病気になる日が来ますように。
Posted by キリンさんキリンさん at 2010年05月17日 15:15
感染した牛のただれた患部から、糞尿、唾液などによって膨大な量の
ウイルスが毎日排出される。
そのウイルスは非常に強い。発生源を経たねばならない。
という事なんでしょう。。。
本当に早く終息しますように。
Posted by 空さん at 2010年05月17日 15:35
空さん

ウイルスは、生き延びるために必死。
でも、
人間だって生きて行くために必死。
それを誰にも責めることは出来ないと思う。
Posted by キリンさんキリンさん at 2010年05月17日 16:17
すごい感染力なんですね。
ワクチン研究には時間がかかると聞きます。
早く特効薬が開発され、
多くの牛・豚が殺されない日が来ることを願います。
Posted by noinoinoinoi at 2010年05月17日 17:00
noinoiさん

ワクチン、あることはあるんだけどね。
なかなか万全とはいかないみたいで・・・。

専門家の方々、
よろしくよろしくお願い致します。
そして研究に予算がたくさんつくように、
祈るばかりです。
Posted by キリンさんキリンさん at 2010年05月17日 17:29
家族同然に可愛がって育てて来た家畜を自分の目の前で処分される現実…やりきれません。
皆さん、『感染拡大を防ぐ』と言う気持ちだけで頑張っていらっしゃいます。
私達は私達に出来る事をして感染拡大を防ぎたいですね。
Posted by 幸せうさぎ at 2010年05月17日 21:50
だから 全部殺さなければならないんですね
初めて知りました

しかし 仮に 処分しなくても良い薬が発明されたとしても また違った新しい病気が出てきそうですよね

叔父が酪農家なので 他人事じゃないので 正直 心配です
Posted by かぁぷ at 2010年05月18日 08:39
幸せうさぎさん

まったくやりきれない思いは同じです。
でも、当事者に比べたら甘いもんです。

本当に、出来ることをしていきたいですね。


かぁぷさん

そうなんですよ。
今の現実は、殺処分しかないのです。

そこを理解しておかないと、
なかなか気持ちが先に進まないみたいなので、
記事を書きましたが。

どこまで助けになるかどうか。
Posted by キリンさんキリンさん at 2010年05月18日 10:59
人間に害がないのなら 食肉として 販売しては どうだろう


って愚問ですか?
Posted by ブルック at 2010年05月27日 12:34
 
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